医療法人すこやか会 おおたにクリニック

おおたにクリニック
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病気スコープ

脳のしくみとてんかん

2007年7月のてんかん基礎講座(日本てんかん協会主催)の講演内容です。
随時訂正・追補しています(最終訂正2014.08)。

2007年7月のてんかん基礎講座(日本てんかん協会主催)の講演内容です。
随時訂正・追補しています(最終訂正2014.08)。

1)はじめに
21世紀は「脳の世紀」と言われている。脳の機能は画像診断の進歩とともに1990年代から飛躍的に解明されてきた。しかし、人体の「組織」としての脳の解明は進んでも、人間の「こころ」としての脳はより哲学的・形而上的側面を有していることから、研究の方法論を含めて未解明な部分も多い。本稿でも人体の「組織としての脳」の観点から、てんかんやてんかん発作にかかわる脳のしくみや機能について概説する。
 また講演に際しては、個人情報に配慮して、症例の呈示については性別、年齢、症状の経過については適宜変更、省略させていただく。脳波や画像、その他の資料についても個人が特定できないように配慮することをご了解いただきたい。


2)脳のかたちと役割
解剖学的に俯瞰した脳の形や、各部位の名称を図1に記載した。これはおおよその脳の部位名と機能について記載しているにすぎないが、てんかん発作との関わりを概略理解するにはこれで十分であると思われる。脳は日々の経験や学習、記憶などを取り入れて、進化する。しかし、てんかんに特徴的な発作症状は多くの症例報告から、一定のコンセンサスが得られ、現在の発作分類に生かされている。もちろん、数分間の発作症状においても、患者が主観的に感じる訴えや観察・映像が記録する患者の症状には、個々には多少の異同があるが、それらは発作分類、てんかん症候群分類を決定する上では大きな妨げとはならない。

脳のしくみとてんかん


3)てんかん発作はどのようにして起こるか
てんかん発作は、なんらかの原因(後述)によって、脳の神経細胞の一部もしくは全体が、一時的に電気的に興奮することに始まる。この現象は神経細胞を取り出して実験する電気生理学的研究や、動物の脳を使った研究、ヒトの脳では脳波検査(脳波も一定の神経細胞の集まりの電気的興奮を測定している、頭の表面からだけではなく頭蓋内脳波も外科的治療を考慮する場合には記録される)や最近では脳の血流を分析すること(SPECTやPET)によって、可視化できるようになっている。突然に引き起こされる(てんかん発作にかかわる)神経細胞の電気的興奮の異常要因としては、電気的興奮を伝える神経伝達物質の量や受容体の異常、神経細胞表面の膜やカルシウム・ナトリウムなどのイオンにかかわる異常などが指摘されている。これらの知見は抗てんかん薬の効果判定や開発にも応用されている。しかし突然おこる興奮のタイミングにどのような異常がもっとも関与しているかは、明らかにされていない。地震が起こるメカニズムはわかっても、何時起こるかわからないのとよく似ているのかもしれない。


4)てんかんの原因
てんかんは脳の病気である。したがって脳になんらかの異常があって初めててんかんはおこる。本項は講演の主題ではないので、簡単に述べる。
(1)胎生期
 胎内での脳形成障碍(従来の障害に同義、「害」は当て字との意見を尊重した)、胎内感染症、染色体異常などである。
(2)周生期
 仮死や脳内の出血などがお産の前後でおこり、その後遺症で後にてんかんが発症することがある。
(3)乳児期以後
 頭部外傷や脳炎、髄膜炎などの後遺症、脳腫瘍が原因になることがある。
(4)その他(合併症や素因・素質・遺伝子異常など)
 知的障碍や運動障碍、広汎性発達障碍など脳の異常と関連する障碍がある場合に、てんかんを発症することがある。また、てんかんをおこしやすい素質や遺伝子異常がある場合もある。この10年余にてんかん症候群の一部に特定の遺伝子異常が発見されたという報告は多数ある。しかし、逆に、ある遺伝子異常があるときわめて高い確率で一定の臨床脳波学的に共通したてんかんが発症するという知見はない。したがって今のところは特発性てんかんなどを発症しやすい「素質」は存在するが、発症するべき「単一の遺伝子異常」は見つかっていないと考えるのが妥当と思われる。


5)てんかん発作症状とその分類
発作が起こっている時に脳波を記録する(発作時脳波)と脳が著しく興奮している様子をあらわす異常波が、脳のある部分から他の部分に広がっていく様子(図2)や、一度に全体の脳に異常波があらわれる様子(図3)などがわかる。前者は焦点(部分)性発作、後者は全般性発作と言う。

脳のしくみとてんかん


したがって図1に示すような機能的役割分担を頭に入れておくと、てんかん発作の症状が脳のどの部位から始まったかが理解しやすい。しかし、てんかん焦点が特徴的な機能を持っていない部分に存在したり、神経細胞の興奮が急速に広がることがあって、必ずしも臨床的な発作の観察だけでは焦点部位を決められないこともある。脳全体が同時にしかも一斉に発作に巻き込まれる全般性発作では焦点はない。また、小児の場合は自覚症状が表現できず、両親や周りの人が気づいた症状をもとに推測することになる。
 国際抗てんかん連盟では、過去に何回かてんかん発作分類を改訂している。2001年の最新の分類の概略を表1にまとめた。一見しただけではなかなか理解が難しいので、分類の基本について説明しておく。てんかん発作型(てんかんではない)の分類は発作の起こる仕組みを基準に分類される。発作を起こす原因はさまざまだが、発作型は発作症状と発作間欠時脳波(発作のないときの脳波、通常の脳波検査で記録される脳波)、および発作時脳波の三つを基準に分類される。原因はなんであれ、発作症状と発作時脳波が共通していれば同じ発作に分類される。発作時脳波が記録できない時は発作間欠時脳波から類推する。一つ一つの発作について発作型が決められるが、ひとつの発作型しかない人もいれば、いくつかの発作型が代わる代わる出現したり、年齢とともに別の発作型が出てくることもある。
 発作を分類する大きな区分は焦点性発作か全般性発作かという点である。これは前述した。焦点性発作では広がりが狭い場合には意識は失われずに感覚や運動の異常などが生じ、より広い範囲に広がると意識の障碍が加わり、さらに脳全体に広がると全身の強いけいれんが生じる。以前の分類では意識が失われない発作を単純部分発作、意識が失われる発作を複雑部分発作と区分されていたが、最新の2001年分類(表1)では意識の有無を考慮せずにすべてを焦点性発作とされている。強い全身性のけいれんは二次性全般化(強直間代)発作と言う。
 全般性発作とは脳全体がてんかん発作を起こしやすい状態になっていて、発作になると一度に脳全体に興奮が及ぶものを言い、異常波の種類、持続時間により症状が異なり、いくつかの発作型に細分される。

 いろいろな発作症状がどのようなてんかん発作型にあてはまるか考えてみる。全身の手足を硬くしてガクガクするのは全般性強直間代発作や焦点性発作の二次性全般化強直間代発作が考えられる。手足を硬くするだけのものは強直発作や焦点性発作の一部(特に前頭葉起原のもの)にみられる。周囲の人がみているとフーと意識が途切れるのは全般性発作の中の欠神発作や焦点性発作の一部(特に側頭葉起原)であることが多い。わけもなく手をまさぐったり口をモグモグ動かしたりするのは側頭葉起原の自動症を伴う焦点性発作、欠神発作で自動症を伴うものを考える。片側の顔の筋肉だけがピクピクするのは焦点性運動発作、手足が一瞬ピクとするのはミオクロニー発作やスパスムが想定される。寝ている時にスーと眼が開いたり、その時に軽く両上肢が伸びたりするのは軽い強直発作や前頭葉起原の非対称性強直運動発作などが考えられる。しかし、家族の方が観察した様子を説明してもらっても、実際に医師が目撃したり、スマホやビデオで撮影した動画をみせてもらうと全く違った発作の様子だったりすることがある。発作型分類は治療薬を選択する上では最も大きな指標である。正確な発作型の診断を誤ることは治療上大きな問題となる。
 診療・観察上の発作表現について付記する。まず大発作、小発作という表現についてである。大発作は手足が大きくけいれんさせるもの、小発作はけいれんがほとんどなく意識の障碍を主体とするものと考えてしまう。しかし前述したように手足を大きくけいれんさせるものにも、全般性強直間代発作と焦点性発作の二次性全般化強直間代発作もあり、この二つは発作の成り立ちも違い、さらに薬の選択も異なってくる。また大発作も小発作も実は同じ発作で単に発作の持続時間や程度の差によるものであることもある。患者、家族、医師、教師、療育・保育担当者などの間で大発作、小発作の意味するところをきちんと理解し合うことが大切である。
 意識消失発作という言葉もよく耳にする。上述したように意識が途切れるてんかん発作は存在するが、欠神発作にしても、側頭葉起原の焦点性発作にしても転倒することはない。換言すれば、意識の減損のみで倒れるようなエピソードのほとんどは失神(いわゆる「脳貧血」、蛇足であるが「脳貧血」と「貧血」まったく異なる病態)であり、てんかん発作は考えにくい。てんかん発作の表現にはこの用語は使用しないほうがよいかと考える。
 一方、激しく一瞬にして転倒する発作で特徴的なものにはミオクロニー失立(脱力)型(あやつり人形の糸が切れたような倒れ方をする、すぐに立ち上がることができる)と強直型(四肢を硬くして体幹を屈曲した形で前のめり、もしくは後ろに倒れる発作で倒れた後もしばらく手足が硬くなっている、後述するスパスムもこのタイプに分類される)に分けられる。同じ転倒発作でも薬剤の選択は全く異なる。言うまでもないが、手足の強直や間代症状を伴う発作の多くは立位で起これば転倒するが、比較的ゆっくりと倒れていくことが多い。
 また、強直発作と全般性強直間代発作も厳密には区別される。詳細は紙幅の都合で省くが、強直発作はLennox-Gastaut(レノックス・ガストー)症候群やその近縁の症候性全般性てんかんに特徴的な発作であり、特発性全般性てんかんや焦点性てんかんには出現しない。
 点頭発作はWest(ウエスト)症候群(点頭てんかん)に特徴的にみられる発作であるが、これは1989年の分類には採用されていなかったが、2001年分類では(てんかん性)スパスムという表現で記載されている。なお、点頭とは「おじぎをする」、「うなずく」、「頭をたれる」という意味である。

脳のしくみとてんかん

6)てんかんの分類
 少しややこしい話になるが、てんかん発作分類とてんかん分類は全く異なる。てんかん発作はてんかんという病気のひとつの症状にすぎない。たとえば肺炎の症状に発熱や咳、痰などがみられるのと同じことである。しかし違うのは肺炎の場合は咳のない肺炎もあるかもしれないが、てんかん発作のないてんかん(という診断)はないということである。

 1989年のてんかん分類では、「局在関連性(焦点性、部分性と同義)」、「全般性」の二大分類と「症候性」、「特発性」の二大分類が前提としてあった。前者は発作の起こり方に対応した分類であり、後者は脳内に明らかな器質性病変、あるいは器質性病変と関連する合併症(たとえば知的障碍など)があるか、ないかという観点からの分類である。この二つの2分法による計4つのカテゴリーが分類の基本になっていた。さらにおそらくは症候性であるが、文献的に明らかな病変が指摘できない症例もあるという意味で「潜因性」という言葉も分類の主要な一群を形成していた。
 2001年分類ではこの10年余の間に報告された新たなてんかん症候群(臨床経過、脳波、画像などから他のてんかんと比べて特徴的であると判断されるてんかんの一群がまとめられて「てんかん症候群」とされる)を総花的に採用されている。また、遺伝子に関する知見をより積極的に取り入れているのも特徴だが、実用的ではないという研究者の指摘が多い。潜因性という用語は「おそらく症候性」に、けいれんという用語は「発作」に置き換えられた。他には「反射てんかん」、「てんかん性脳症」という用語などが新しく分類の一項を形作った。表2にその分類の大項目のみを示す。この各項の下にいくつかの細項目としてのてんかん症候群が記載されている。たとえば、1.乳児・小児の特発性焦点性てんかんの中には「中心側頭部に棘波をもつ良性てんかん」などが、6.てんかん性脳症には「West症候群」や「Lennox-Gastaut症候群」などが分類されている(表2)。

脳のしくみとてんかん

 強調しておきたいことは細項目に取り上げられた代表的な「てんかん症候群」を有する患者さんは決して多数ではないということである。多くの患者さんは特定のてんかん症候群と診断できない「症候性焦点性てんかん」であったり(発作間欠期脳波からは焦点を特定できなかったり、多発焦点性であったり、発作症状とてんかん性異常波の出現部位が合わなかったりする)、いずれの全般性てんかんにも分類できない特発性全般性てんかんであったりする。てんかん症候群分類は、典型的症例をまとめた各地の名峰(富士山、岩木山、浅間山等々)のようなものである。その症候群の原因・発症年齢・病気の経過・治療の難易などはおおよそ共通している。この名峰を参考にして、個々の患者さんがどの名峰に類似しているか、あるいはあてはまるかを考えていくのが臨床の実際場面になる。名峰は山々のごく一部であり、多くの名もなき山々が各地に連なっているが、同様のことが個々の患者さんのてんかん分類にも当てはまる。
 てんかん分類とてんかん発作との関係の概略を表3に示した。

脳のしくみとてんかん

次にいくつかの特徴的で、かつ「比較的」遭遇しやすいてんかん症候群について説明しておきます。

a)中心側頭部に棘波をもつ良性てんかん(BECCT)
 乳児・小児の特発性焦点性てんかんに分類されているこのてんかん症候群は予後のよい(知的障害や運動障害を伴わず、発作の止まりやすい)焦点性てんかんの代表的なもので、また比較的患者さんも多くみられます。
幼稚園から小学生の頃に発症します。寝がけや起きがけに片方の口や目の周りや舌がピクピクしたり、同部位のしびれなどの感覚異常を訴えたり、よだれを出したりする症状が典型的なものです。本人は意識があれば、目覚めて自分で異常に気づきますが、多くの場合しゃべることはできません。この後に意識をなくしたり、手足のけいれんに拡大していくこともあります(二次性全般化発作)。
 発作間欠時脳波には、中心部から側頭中部(耳の上あたり)に特有の形をした棘波が睡眠中にたくさん出現します。脳波だけをみると異常が強いようにみえますが、経過は良好です。中学生くらいの年齢で発作は起こらなくなり、脳波もその後正常化します。
 このてんかんの診断は知的障害や運動障害のない子どもにのみ適用されます。同じ症状や脳波異常がみられても他の脳障害がある子どもにはこの診断名をつけることはできません。しかしこのように自然に治るてんかんが存在することが明らかになって以降、てんかんの治療や予後に対する考え方が大きく変わりました。つまり、このてんかん症候群とはっきり診断できなくても、同じような良好な経過をたどるてんかんがたくさんあることを、医師たちが認識し始めたからです。特に小児期に発症するてんかんは年齢とともにその様子が変わり、治療に関係なく、発作の頻度も少なくなってくるものが存在することを気に留めておく必要があります。「てんかん=不治の病」という考えは通用しません。

このてんかん症候群の亜型に非定型良性焦点(部分)性てんかん(atypical benign partial epilepsy: ABPE)という一群があります。当初BECCTと考えてテグレトール(カルバマゼピン、CBZ)を処方されていたのに、発作が止まらず、よけいひどくなるてんかんです。
ひどくなると日中でも茫乎として反応が鈍くなる非定型欠神発作や、突然ぐらーと体や頭が脱力し、右腕や左腕、時には両腕が脱力したりするいわゆる「部分性脱力発作」が出現します。脳波はBECCTより悪化していることが多く、睡眠中はほとんどがてんかん性異常波で占められるようになります。脱力発作の発作時脳波をみると発作に一致して対側(左上肢や左下肢が脱力していれば右側の脳から)に棘徐波が連続するてんかん性異常波がみられます。このような症状が出てくれば、CBZを中止することです。BECCTに特有な焦点性発作はよくなりませんが、脱力発作は改善します。そしてデパケン(バルプロ酸、VPA)を処方します。通常量で発作がよくならなければ、少し多い目に飲みます(血中濃度で100μg/ml以上)。時には従来薬のうち欠神発作に用いるエピレオプチマル(エトサクシミド)や付加的抗てんかん薬のオスポロット、さらに新薬のイーケプラのうち1種類を併用することもありますが、これらは少ない目に使用することに留意することも必要かと思います。ABPEも最終的には予後が良いと考えられます。
私はBECCTと考えても、あまりにも脳波異常が強い場合はCBZを第1選択にするより、敢えてVPAを第1選択薬して様子をみることもあります。診断が大事で、発作や脳波にびっくりして多くの薬剤を処方する医師もいますが、薬の過剰投与はよくありません。VPAのみで様子をみていくと2年くらいから数年で発作・脳波とも改善します。そのために良性(benign)という用語が冠せられています。薬を勝手にやめてしまったのによくなった患者さんを最近経験しています(開業後の軌跡参照)。もちろん例外があることは付記しておきます。

b)早発良性後頭葉てんかん(Panayiotopoulos型)と遅発小児後頭葉てんかん(Gastaut型)
 Panayiotopoulos(パナイオトポーラス)もGastaut(ガストー)も有名なてんかん医学者の名前です。特にGastautは多くのてんかんの発作症状や脳波との関係を明らかにした学者です。ここに記載された後頭葉てんかんは二つともa)のBECCTと同様に良好な経過をたどる特発性焦点性てんかんです。
 発作間欠期脳波は後頭部に異常があり、症状も後頭葉に関係する視覚症状(様々の形の動く光が眼の中に見える、視野の一部が暗く欠ける、真っ暗になるなど)や眼球の動きの異常を示すてんかん症候群です。
 早発性と遅発性の違いはその発症年齢(早発性は幼稚園から小学校低年齢、遅発性は小学校年齢)の他には、早発性はてんかん発作として嘔吐や頭痛、顔色不良などの自律神経症状を伴うことが多く、けいれんの持続時間が長いことがある、発作回数は少ない、脳波異常が後頭部以外にも出現することがある、などの特徴があります。

c)小児欠神てんかん
 このてんかんは特発性全般てんかんの代表的なてんかんで、欠神発作が主な発作です。欠神発作とは突然意識がくもり、動きが止まり、突然もとに戻る発作です。だいたい5~20秒くらいの持続時間です。この時の発作時脳波は3サイクル(1秒間に3回繰り返す)棘徐波複合という特徴的な異常波が脳全体に出現します。この発作は過呼吸(深呼吸を続けて何度も繰り返すこと)によって誘発されやすいので、意識の障害を伴う他の発作、たとえば意識障害を伴う焦点性発作(従来の複雑部分発作)などとは過呼吸をさせると区別が可能なことが多いのです。
 欠神発作には定型と非定型の二種類があり、主に発作時脳波から区別されます。小児欠神てんかんにみられるのは定型欠神発作です。このてんかんも幼稚園から小学生の頃に発病します。欠神発作はひどい時には一日に数十回から百回以上もみられることがあります。このてんかんはくすりによく反応し、ある程度くすりの血中濃度が上がると発作も脳波もすぐに改善します。第一選択薬はバルプロ酸(デパケンなど)です。バルプロ酸のみで発作がなくなり、脳波異常が正常化しない時はエトサクシミド(エピレオプチマル)やラモトリギン(ラミクタール)を併用します。私はエトサクシミドを第2選択薬にしています。くすりを飲む期間は欠神発作だけの場合は半年くらいで十分との意見もあるくらいです。全般性強直間代発作を伴っている場合はもう少し長くくすりを飲む必要があります。

d)West症候群(点頭てんかん)
 乳児期に発症する手足をピクッと曲げたり、あるいは伸ばしたりするてんかん性spasms(スパスムス)が主な発作で、hypsarhythmia(ヒプスアリスミア)という特徴的な脳波異常がみられるてんかんです。West(ウエスト)というのは医師の名前で、この医師の子どもが、spasmsの発作症状を呈したと報告し、その治療法を求めたのが最初の文献ですので、その名前がついています。点頭というのは「うなずく」、「こうべを垂れる」などの意味で、この表現からは四肢の動きよりも頭の動きが強調されています。
 原因がはっきりしているもの(症候性)と原因のはっきりしないもの(潜因性)がありますが、2001年分類では両者ともてんかん性脳症の項に分類され、原因については別の分類軸で他のてんかんとひっくるめて記載されています。他のてんかんとは違って、内服のくすりが効かない時には、ACTHというホルモン注射がよく効きますが副作用が強くでることがあります。発作予後はいいものとわるいものとまちまちです。内服薬としては、いろいろなくすりが試みられていますが、多くの患者さんに共通して効果があるものはいまだに見当たりません。唯一ヨーロッパやアジアの一部で使用されているビガバトリンが結節性硬化症によって出現するWest症候群に効果があると認められていますが、視野狭窄の副作用の出現が多いとの理由などで日本ではまだ、認可されていません。最近、点頭発作が始まって間もなく相談があり、休日に緊急で脳波検査した患者さん(その後専門病院に紹介)は当方で処方したVPA(デパケン)で、発作・脳波とも改善しました。
 West症候群発症後に発達の退行(それまでできていたことができなくなってしまうこと)がみられたり、潜因性の場合でも発作がなくなっても知能障害が残ることがあり、その意味では予後の悪いことの多いてんかんです。年齢とともに脳波・発作型が変化し、次に述べるLennox-Gastaut症候群や、その他の症候性全般てんかん、時には症候性焦点性てんかんなどに病型が変化していくこともあります。

e)Lennox-Gastaut症候群
 強直発作、非定型欠神発作、ミオクロニー発作、転落(転倒)発作(バタンと急激に倒れる発作)などいくつもの発作型を示し、脳波上広汎性鋭徐波複合を呈するてんかんです。West症候群から進展した場合はてんかん性spasmsが主な発作型として残ることがあります。
 Lennox(レノックス)、Gastaut(ガストー)とも有名なてんかん学者の名前です。この人たちがこのてんかんについて詳しく検討したので、その名前がついています。しかしこのてんかんの診断のてがかりとなる特有な脳波所見、すなわち広汎性鋭徐波複合がみられる患者さんはそんなに多くはありません。以前は多くの難治てんかんの患者さんにこの診断名がつけられていましたが、詳しい診断基準が設定されてからはこの診断に該当する人は少なくなっています。反面、Lennox-Gastaut症候群と診断できない、強直発作やてんかん性spasmsを主な発作型としている年長の難治てんかんの患者さんがたくさん出てきました。この人たちは今のところ症候性全般てんかんという大きな枠の分類の中に含まれています。
 Lennox-Gastaut症候群は複数の発作を合併して持っている上、それらの発作が難治のことが多いのです。そしてそれぞれの発作型について有効なくすりが異なるため、発作を良くしようとしているうちに、ついついくすりの量や種類が増えてしまいます。しかしあるくすりがひとつの発作型には有効でも他の発作を悪化させることや、くすりの量や種類が増えることにより眠気が強くなり、日常生活への適応を悪化させたりします。いかに少ない種類のくすりで最良の効果を得るかについて、医師が悩むことが多い難治てんかんです。
2013年6月よりルフィナミド(商品名イノベロン)がこの症候群に限って処方できることになりました。しかし、外国の文献や治験段階のデータからは「特効薬」とまでは言えないようです。

f)乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群、SME)
 このてんかん症候群は元気で育っていた(と思われる)子どもさんに、1歳までに両側性、あるいは半身性のけいれん発作が起こり、それも頻発します(月に数回から数十回)。発熱時に群発(1日に何度も繰り返すこと)や重積(30分以上発作が止まらない状態)しやすく、入浴によるけいれんの誘発もしばしばみられます。薬物治療にも抵抗性が高く、なかなか発作がとまりません。2-3歳になってくるとミオクロニー発作や非てんかん性ミオクロニアがみられるようになります。脳波は発症直後は異常が少ないことが多いのですが、途中から広汎性棘徐波がみられるようになります。発症するまでは知能障害はないと言われていますが、乳児期に発症し、急激に悪化するため、きちんとした発達の評価ができていない場合もあります。発症後の知的発達は不良です。ミオクロニーてんかんというものの、ミオクロニー発作はあまり顕著ではなく、全般性間代発作や全般性強直間代発作が主な発作です。このてんかん症候群が認識されたことにより、1歳前に始まる頻発・重積する難治けいれんがあり、次第に知能障害がはっきりしてくるてんかんの臨床研究や遺伝学的研究が大きく進展しました。SMEとは発作症状が多少異なるものの、よく似た経過をたどるてんかんの存在も知られるようになりました。これらのてんかんは、1歳前の発症や発作が難治であること、知能障害を伴いやすいことは共通であっても、West症候群とは全く異なるものです。治療には難渋することが多く、ふらつきや多動などが薬で増強されることがあります。臭化カリウム、stripentol(ストリペントール;日本ではディアコミットという商品名で2012年秋発売されています)などがやや有効と言われています。

g)ミオクロニー失立発作てんかん(Doose症候群)
3歳から5歳くらいに強直間代発作やミオクロニー発作で発症します。失立とはバタンと倒れることで、倒れた後はけいれんするのではなく、力が抜けている状態を言います。このてんかんは発作も脳波も比較的はっきりした異常を示しますが、経過は良好なものが多いと思われます。脳波も広汎性(異常波が全体に広がるもの)のことが多いのですが、その広がりが一様ではないため、医師によっては時々診断を間違えることがあります。部分発作と考えて、カルバマゼピン(テグレトールなど)を投与したりすると発作が悪化します。診断がはっきりしたらバルプロ酸(デパケンなど)を服用すれば、多くは発作、脳波とも改善します。まれにこの診断で経過がいいように思われても、発作、脳波とも悪化するタイプの方がおられます。その場合は適切な治療を行っていても、最終的にレノックス・ガストー症候群と区別しにくい臨床脳波学的様相を呈することになります。強直発作というレノックス・ガストー症候群に特徴的な難治発作もみられるようになります。

7)てんかんと発達、さらに関連症状についての議論
 前述したようにてんかんの原因やてんかん分類によって、その精神神経学的予後もおおよそ推測できる。しかし同じ原因によるてんかんでもその発作や精神神経学的予後は異なることは当然あり得る。ここで重要なことは「てんかん発作症状が精神神経学的予後を規定」するのか、「精神神経学的予後を規定するような脳の異常がてんかん発作症状をもたらすのか」という議論である。たとえば基礎疾患に結節性硬化症(脳の形成障碍と皮膚異常が特徴の疾患)という胎生期要因があり、West症候群を発症した患者がいる。多くのこのような患者は知的予後が不良である。一方、焦点性てんかんを発症した結節性硬化症の患者は比較的知的予後が良好である。さらにてんかんを発症しなかった結節性硬化症の患者には知的障碍のない患者も多数いる。これを見て、発症したてんかんによって知的予後が左右されると考えるか、もともとてんかん発症をもたらす脳の異常に軽重があり、それが知的予後も左右していると考えるかである。
 「発作が何回も起こると知的発達が悪くなるのではないか」、「てんかん発作が止まらないので、知的発達や運動発達が進まないのではないか」という質問もよくある。答えは「正確なてんかん診断」に尽きるのである。発作が一時期頻発しても、知的予後が良好な場合もある。もちろん頻発して知的予後の悪いてんかんもある。うまくてんかん発作が止まっても知的予後がはかばかしくない患者も存在する。これらの要因は種々存在するが、各種の要因を勘案しながらも、患者がどのようなてんかん症候群に該当するか、ないしはそれに近いかを考えることが重要である。もちろん診断確定には症状の経過を観察するという縦断的側面もあるので、発症直後のごく短期の経過からは判断できないことも多いのは事実である。
 てんかんとその関連障碍である知的障碍や発達障碍、さらに脳性麻痺を中心とする運動障碍は、時には密接に関連し合うが、時には全く無縁に、あるいは独立して経過することも念頭においておきたい。これらの関係を図4に示しておく。

脳のしくみとてんかん

本稿の一部は私が大阪府立母子医療センター在職中に作成した「てんかんガイドブック」から引用した。当時、ガイドブックの草稿に懇切に手を入れていただいた、今は亡き清野昌一先生にここに改めて御礼申し上げる。