母子保健奨励賞への感謝を込めて-私と母子保健-
医学部卒業後30年、大阪から帰去来、診療所を始めて丸10年が経過しました。今回、母子保健奨励賞という私の人生においておそらく二度とは経験できないであろう晴れがましい賞を賜与いただきました。賞をいただく対象となりましたのは、主として開業後の10年間の活動とのことです。これは地域の行政、保健、福祉、保育、教育など子どもたちの育成にかかわる方々が、私に活動の場を与えてくださり、評価いただいたお陰と心より感謝申し上げます。また、地区医師会の先生方からは、折に触れ、ご指導やご助言をいただきました。ここに改めて御礼申し上げたいと思います。
きわめて個人的なことになりますが、私の医師としての30年を簡単に振り返らせていただきます。
私が母子保健を意識したのは、市中病院での研修後、大阪府衛生部保健予防課(当時)に就職させていただいた頃にさかのぼるのではないかと思います。卒業後の10年はこのような母子保健行政の一端を経験するとともに、生涯のテーマとなる脳障害児の医療や療育に関する臨床医としての研修を大阪府立母子保健総合医療センター、国立療養所静岡東病院(てんかんセンター)(当時)などで行ってきました。
次の10年は再び大阪府立母子保健総合医療センター小児神経科でのてんかんや脳性麻痺を持った子どもたちとの関わりです。これらの子どもたちを支えるのは狭義の医療にとどまらず、家庭や学校・幼稚園・保育所での生活、福祉制度の活用、さらには終末期医療にかかわる問題など多岐にわたり、その都度私たちの意見や見解を求められることになりました。重度心身障害児に対する気管切開や気管喉頭分離術、胃ろう造設術や噴門形成術、人工呼吸器による在宅医療など、現在ではごく当たり前に行われている障害児の医療的ケアに担当各科の医師や看護師、ソーシャルワーカー、保健師らとともに試行錯誤しながら取り組んできました。「障害の受容」、「家庭・園・学校での生活」、「親亡き後」などに関する両親の悩み、不安、悲しみ、そして子どもへの慈しみの思いを聴きながら、万感胸に迫り、共に涙することも稀ならずありました。
奇しくも今をさかのぼること10年前に故郷に戻ってきました。母子保健総合医療センターからわずか100km程しか離れていないこの地は大阪府下のニュータウンとは全く異なる過疎と少子高齢化の進む、緑豊かな紀伊水道に臨む田舎町です。開業と時を同じくして乳幼児定期健診の市町村への全面移管がありました。私は管内市町村保健師の依頼により、健診講習会の講師を務めるとともに、御坊市の4ヵ月健診、印南町の4・10ヵ月児、3歳児健診を担当することになりました。これらの健診は対象者の全員を診察し、さらに関係者の理解と協力の下に、二次(フォローアップ)健診を兼ねたものにしています。
また、保育士に対する知的・身体障害児に関する講演会を契機に、市立保育園の「障害児保育専任医」を委嘱されることになりました。この地には平成16年までは障害児の通園施設がなく、市立保育園が「統合保育」の下に障害児を受け入れていました。これらの障害児の医学的背景や保育・療育へのアドバイス、医療機関・療育施設との連絡調整が主な仕事です。平成17年3月までの7年間で、57人、延べ136回の相談を保育園に出向いて行ってきました。また自院では脳性麻痺の子どもたちを対象に、専門の理学療法士を大阪から招請し、リハビリテーションや療育相談に応じています。
開業当時、この地域では乳幼児予防接種はすべて集団接種でした。折しも日本小児神経学会が検討していた「熱性けいれん児に対する予防接種基準」に、集団接種地域での予防接種が全く考慮されていないことを知りました。学会でその実情を訴え、「基準」の完成時に集団接種地域への配慮をしていただきました。この取り組みの後、各自治体や医師会会員の協力で、個別接種化が進みました。さらに自治体の枠を超えた広域化接種体制も実現し、子どもたちの予防接種を受ける利便性が大きく向上しました。
地区医師会母子保健担当理事としては、御坊保健所と協力して、小・中・高校生の生活習慣病対策のための健診、子どもの事故予防対策、子どもの虐待防止事業などにも参画して参りました。
今後は、今までの活動を継続するとともに、地域での小児救急医療体制の構築、学校での喫煙予防対策、子どもの心の発達を支援する体制作りなどにも積極的に参加して行きたいと考えています。
(写真は平成18年11月17日受賞式当日東宮御所における皇太子殿下・妃殿下にご接見いただいた時のスナップです。左から4人目が私です)。
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【ひどい向き癖を放置すると股関節脱臼の原因となることがあります】
赤ちゃんの向き癖にご注意ください。
最近、私が出務している和歌山県御坊市および印南町の4ヵ月健診で、向き癖から片側の股関節開排制限が目立つようになりました。この原因として、母子健康手帳にも書かれているように、乳児突然死症候群(SIDS)予防のために仰向け姿勢の育児指導が広く行われ、その結果として、一方向のあお向け姿勢で長時間放置されることがあります。あお向け姿勢でも右にも左にも頭が向けられればいいのですが、ついつい赤ちゃんの得手のいい方で放置しがちです。これに関与していると思われるのが、乳児期早期の非対称性緊張性頚反射(原始反射-赤ちゃんの反射-のひとつ)で、これらの要因によって後頭側下肢の可動制限を来たし大腿内転筋の拘縮・股関節開排制限、さらに股関節脱臼に至ることがあります。この実態については、第12回近畿外来小児科研究会(2007年4月)で報告しましたが、さらに別の観点から第49回日本小児神経学会(2007年7月)でも報告しました。前者はHPがあり検索可能です。向き癖のある赤ちゃんはなるべく、それと反対の方に頭(顔?)を向けるように気をつけてください。おもちゃを反対方向から振ったり、声かけも反対側からするようにしてください。股関節が硬ければ、がに股の姿勢で抱っこしたり、布おむつを3枚くらい重ねて、がに股の姿勢になるように股を開かせてあてることが推奨されます。しかし、これらの処置の前に、股関節が硬いと思ったり、向き癖がひどいと思ったら、かかりつけの小児科医か小児に詳しい整形外科医、あるいは市町村や保健所の保健師にご相談ください。