「母子保健奨励賞への感謝を込めて-私と母子保健-」
「股関節脱臼と赤ちゃんの向き癖について」
「てんかんと自動車運転、運転免許」
「南方熊楠はてんかんであったか-扇谷明氏の論文から-」
「奥田英朗氏の著書にみるこころの病気」
「てんかん診療と病診連携」
「開業医と発達相談」
「天地有情ー南木佳士のこと」
「日本てんかん協会機関誌「波」の記事より」
「メディカルクオール2014年11月号、12月号より」
「這えば立て(日高野67号)]
「小児期・青年期患者の地域ケアを考えるセミナー」案内文
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<日高野67号投稿原稿(2016年6月発刊)>
這えば立て
子どもの運動発達や知的発達に関わり始めて三十年余りになる。故郷で開業医になってからは地域の乳幼児健診にも駆り出されている。病気を「診る」医者のはずが元気な子どもを「観る」ようになるとは、赤ちゃんコンクール(言葉は悪いが)の判定員か等々、当初は後ろ向きでシニカルな思いもあった。半面、「子どもは地域の宝です」、「健診による子育て支援は立派な少子化対策です」という麗句的建て前論に多少は与する心情や、ある種の「生活の糧」や「生業」という側面も否定はできず、月に二回は健診の現場に赴いている。過去のしがらみから十五年続けていた大阪府熊取町の乳幼児経過観察健診は町から一枚の感謝状をいただいた後、自身の不整脈の再発を契機にやっと放免してもらえた。そんな乳幼児健診や発達にまつわるいくつかの事象を記載してみたい。当然のことながら事象そのものはとうの昔に成書に言及されている。私のオリジナリティは成書に書かれた事象をこの同人誌に私の言葉で書いただけのことである。
個体発生は系統発生を繰り返すという進化論的文言はかつての生物学のテキストには載っていたかもしれない。赤ん坊がハイハイを始めるのは満六、七カ月。初めはお腹を床にすりつけて這っているが、まもなく両手と膝で這いまわるようになる。この頃にはお座りもできるようになり、さらに数週間の時を経れば座卓やソファの縁を持って立ち上り、二、三の旬日を待たずに伝い歩きを始める。系統発生的に考えれば猿が人間になるのがこの頃なのか。四足動物が二足動物に進化すると仮定されるこの時期、赤ん坊の一部に全く這わないで立つ子がいる。つまり四足動物の時間を飛び越して二足動物に進化することになる。うつぶせにされるのを嫌がり、結果として当然のごとくハイハイはしない。お座りをさせてもらってお尻を動かして移動する。
ハイハイをしないで歩いた子は進化論的にはよりヒトらしいのか、あるいはその逆に進化の道筋を踏襲しない異端なのだろうか? この一群の子どもたちは多少とも自立歩行の開始に遅れを認めるが、長じて運動が不得意とか、かけっこが苦手ということはない。もちろん知的発達も他児と差はない。個体発生(発達)は系統発生よりもその道筋が多様であるのか。それともこのような個体発生のバリエーション同様に系統発生の途中でも、進化が途切れたり、ある段階をスキップしたりした種も意外と多かったのかもしれない。
十カ月前後になると真似(模倣)も上手にできるようになる。「オツムテンテン」、「コンニチワ」、「パチパチ」などが定番の「芸」である。子どもは眼の前にいる人の仕草を覚えて同じことをする。相手が喜んでくれるのがわかるし、自分もそれができることに達成感を覚えている。これは子どもからみれば、鏡に映った光景を模倣していると考えてもいい。そうであるとすれば「バイバイ」は手のひらを自分に向けてするのが、子どもにとっては正確な真似のはずである。なぜ子どもは教えられてもいないのに手のひらを相手に向けて「バイバイ」をするのか? この疑問は近年、文字通り「ミラーニューロン」という脳機能の存在を同定することによって解き明かされた。
「バイバイ」で手のひらを自分に向けて「正確」に行う子どもたちがいる。多くはコミュニケーションに障害のある自閉症を有する子どもたちである。この子どもたちも成長とともに本来の「バイバイ」を身につけるようになる。必要とする時間や道筋は万別ではあるが、全ての子どもたちはそれぞれのペースで育っていく。頼もしくもあり、愛おしくもある。
幼小児期の記憶がどの程度まで脳に刻み込まれているかについては未だ判然とはしない。「胎教」という言葉はあるが、おそらく母体の精神・身体の安寧が胎児に影響を及ぼすことが大きく、胎児への直接的な影響は限られたものである。生まれたての赤ん坊でも、多くのことが理解できることはいくつかの実験的手法で証明されてはいるが、これとて記憶として残ることとはその意味合いが異なる。零歳児の頃から繰り返す五感の刺激はいつか知識や言語となっていくことは前述の真似ごとにも通底するものである。三歳(現在の数え方では満二歳か)でも十分記憶はできるであろうが、一回きりのエピソードがどれだけ衝撃的なものであっても、それが成年になって鮮やかに甦ることは否定的であろう。しかし、子どもが強く恐怖を覚え、戦慄し、愛情から見放されるエピソードは、それが反復・継続されることによってきわめて強く脳裏に刻み込まれる。いわゆる「虐待」のもつ深刻さである。
「フラッシュバック」、「アダルトチルドレン」、「PTSD」、「第四の発達障害」など、個人のみならず社会の病理を剔出させるがごとき用語が人口に膾炙するようになった要因のひとつがこの事象である。三つ子の魂に刻まれた恐怖や疎外・寂寥はやがてその子どもが成人した後、本人の意思とは別の次元で、さらに次の世代に対して同じように虐待として具現化する。「世代間伝達」と言われる所以である。百歳までの人生を心豊かに慈愛に満ちたものにする、その原点は確かに「三つ子」の時期に醸成されるものかもしれない。
乳幼児健診において子どもの支援と親の支援、双方をしっかり行うのは至難である。ここに書いたような物知り顔の薀蓄や講釈は親たちに最も嫌われる類のひとつである。親支援はもっぱら保健師やその他のスタッフに任せて、自身は淡々と子どもの笑顔をみつめ、泣き声に耳を傾けて業務を遂行している。
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小児期・青年期患者の地域ケアを考えるセミナーを3回開催しました。その案内文を以下に列記しておきます。地域に多くの医療情報を提供し、多少とも人材の育成や知識のレベルアップをめざしたいと考えていますが、どの程度継続できるか私自身も見当がつきません>
第3回 小児期・青年期患者の地域ケアを考えるセミナー
第3回小児期・青年期患者の包括ケアを考えるセミナーは日高小児科懇話会などとの共催として、以下の要領で開催することになりました。医療・保健・教育関係者のみなさま以外でも、瀬戸先生とご縁があったり、小児の病気などに興味のある地域の方々の参加もぜひお願いいたします。
日時:2016年2月4日(木)18時30分~、約1時間30分
場所:国保日高総合病院講堂(御坊市薗116-2)(☎0738-22-1111)
演者:静岡県立こども病院院長 瀬戸嗣郎 先生
演題:近未来の小児医療・母子保健を考える
-テクノロジーの進歩と少子社会がもたらすもの-
座長:日高病院小児科医長 芳山 恵 先生
瀬戸嗣郎先生は御坊市のご出身です。1969年日高高校を卒業され、京都大学医学部を経て、同小児科、国立島根医科大学(現・島根大学医学部)小児科等で、主として小児アレルギー学を専門にして、本邦の小児医療をリードされてきました。その後、大阪府岸和田市民病院院長を務められ、2011年より静岡県立静岡こども病院院長として活躍されています。今回ご多忙の中、故郷でのご講演お願いしましたところ、ご快諾をいただきました。病院関係者のみならず、小児医療や母子保健に興味をお持ちの保健分野や地域の方々にもぜひご参加いただきたく思います(講演会世話人:おおたにクリニック 大谷和正)。
主催:日高地方小児科懇話会、日高病院小児科、小児期・青年期患者の地域ケアを考えるセミナ-
後援:日高医師会、(株)大塚製薬
第2回:新生児・小児の外科疾患から学ぶ
日時:平成26年10月25日(土)15時30分~
会場:花ご坊
<講演>15時45分~16時45分
座長 おおたにクリニック 大谷和正
演者 和歌山県立医大第2外科学長特命教授(小児外科)
窪田昭男 先生
演題 手術は始まりにすぎない-外科疾患の子どもたちの人生に寄り添って-
昨年の第1回に続いて、2回目の「小児期・青年期患者の地域ケアを考えるセミナー」を大塚製薬の協力で行うことになりました。今回の講演は窪田昭男(くぼたあきお)先生にお願いしました。
窪田先生は1975年金沢大学医学部を卒業され、その後大阪大学第一外科、近畿大学第二外科、大阪府立母子保健総合医療センターなどで小児外科医として活躍され、2013年からは学長特命教授として和歌山県立医大第2外科に赴任されています。窪田先生は論文の執筆や学会の主宰などでも多くの業績を残されていますが、何よりも手術や術後のケアなど臨床面において卓越した実績を残され、現在も活躍されています。横隔膜ヘルニアや消化管閉鎖など出生直後に展開される超緊急手術から、鼠径ヘルニアや虫垂炎まで小児外科の領域は広範囲です。1回の手術で治療が完結する患児がいる半面、繰り返し手術を受けざるを得ない子どもたち、何らかの器質的・機能的困難を持ちながら人生を歩む子どもたちが少なからず存在します。このような患児の多くは病院からその人生が始まりますが、長ずるにしたがい家庭のみならず、園、学校や地域社会などとの関係も重要になってきます。そこには窪田先生の言葉を借りれば“Narrative Based Medicine"が要求されます。我々地域で医療や保健、療育や教育に携わる者には、外科的疾患は「専門病院にまかせておけばいいので関係ない」という発想があるかもしれません。この機会に新生児・小児外科的疾患を再認識するとともに、外科的疾患から小児の地域ケアを考えてみたいと思います。
第1回:小児神経学と地域医療
講演1「子どもの在宅医療における課題-依頼する側から訪問する側になって考えること-」鳥邊泰久先生(豊中市)
講演2「熱性けいれん・てんかん診療のアップデート」田邉卓也先生(枚方市)
日時:10月19日(土)14時50分
場所:御坊市の花ご坊(電話0738-22-2326)
セミナー開催の趣旨
子どもの慢性疾患の包括ケアや在宅医療については、一部ではその重要性が指摘されてはいましたが、社会的にはほとんど注目されてきませんでした。また、稀少疾患の診療は大学病院や小児専門病院に任されてきたのも現実です。しかし、子どもが遠方の病院に長期入院することの是非が議論されるとともに、病気を持ちながらも、家族と生活し、地域で他の子どもたちと交流し教育を受けることが重要視されつつあります。今回、「小児期・青年期患者の地域包括ケアを考えるセミナー」を開催するのは、高齢者に偏りがちな医療・介護資源供給に一石を投じるとともに、慢性疾患をもつ子どもたちへの包括ケアの重要性を認識してもらうことにあります。第1回目として、比較的関心の高い「重度心身障碍児の在宅医療」と「けいれん性疾患」を取り上げました。
鳥邊泰久先生は1992年に関西医大を卒業され、阪大病院や府立母子医療センターなどに勤務された後、2012年に豊中市で開業されています。母子医療センターでは重度心身障碍児の在宅医療支援室の立ち上げに尽力され、開業後は自らその最前線でご活躍されています。田邉卓也先生は1989年に大阪医大を卒業され、同大病院、枚方市民病院などで勤務され、2010年に開業されています。枚方市民病院では小児救急医療体制を構築されるとともに、けいれん性疾患の病態と治療に関して、診療の現場から多くの臨床研究を発信されています。お二人とも開業医としては気鋭の若手であるとともに、品格・識見も兼ね備えておられ、第1回目の本会にふさわしい講師と考えています。
この会には医師のみならず多くのコメディカルのみなさま、地域で子どもの健康や福祉を支えておられるみなさまにも参加していただきたいと思います。お気軽にご参加くださいますようお願い申し上げます。